『刻無 零』
クトゥルー神話「同人ゲーム」です。
商業作品ではありませんので、ご注意ください。
■ スクリーンショット
■ 概略
ジャンルを一言で言えば、伝奇ものです。
舞台となる蓬莱町で起きている『神隠し』――。
『寄女流し』なる伝統行事――。
春霞の持つ赤い指輪――。
それらの要素が複雑に絡み合い、物語が進展していきます。
■ 全体評価
文章は安定、ストーリーは面白く、絵も可愛く、歌入りムービーもあり。
しかも、文章ボリュームもあってCG枚数も多く、なのに購入価格は1680円。
……おまけにEDは片霧烈火ですか……。そうですか……。
刻無 零 ( 「とらのあな」で見つけました )
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0000/08/76/040000087681.html
同人というものに拒絶感がなければ、クトゥルー神話好きさんには是非手を伸ばして欲しいと思います。
あ……。念のため。18禁じゃないですよ。
微エロなシーンは何箇所かありましたが、普通に全年齢対象です。
■ 『刻無 零』におけるクトゥルフ神話
……私事なのですが……、クトゥルー神話作品を見ると神話用語が使われている箇所を抜き出してメモる趣味があります。
もちろん、この『刻無』でも抜き出しをやりました。
結果――、あの『斬魔大聖デモンベイン』や『終末少女幻想アリスマチック』に並ぶほどのクトゥルフ神話用語が抜き出せました。
実例をいくつか挙げます。
『まだ被害の規模が明らかになってはいませんがこの事件に際し、先ほど総理官邸から緊急会見が行われ、それによると、中東諸国で強い勢力を持つ武装過激派グループ<アルハザード>の犯行である可能性が高いという発表がありました。』
[春霞]
「『エーリッヒ・ツァン』って二人組のアーティストだよ。
私、アルバム持ってるもん」
[氷室]
「この『陰陽目永支』の意味すること──。
それは、陰と陽の節目……つまり、第三の要素たる『混沌』状態を永きに渡りバランスよく支える為の儀式として行われたと考えられるんだ」
[春霞……]
「リバイアサン。
ティアマット。
ナーガ──」
[春霞……]
「そして、ダゴン」
[春霞……]
「全ての鱗ある眷属を孕みし、至高の存在……。
それが、『唯一の蛇』」
■ オリジナリティあふれるクトゥルー神話的解釈
伝奇ものの楽しみ方の一つに、「現実世界や歴史の解釈」があると思っています。
クトゥルー神話創作でいうなら、織田信長=第六天魔王=ニャルラトテップとしたり、ビキニでの核実験=大国による対クトゥルー戦争としたり、というやつです。
たとえば、『刻無 零』にも作中にこういう台詞があります。
[氷室]
「いや、待てよ……。
西洋錬金術も、遡れば、古代エジプトで始まった治金術が源流。
紀元前3000年からの歴史を持つ古代エジプトが絡んでくるとなれば、そんな時代の定義なんて、意味がないな……」
[氷室]
「僕も大学で学んだ知識でしかわからないけど、西洋の錬金術は古代エジプトの治金術が源流だと言われてるんだ。
エジプト神話の医学や学問を司る鳥の神『トート」は、錬金術における神とされる3つなるヘルメス……つまり『ヘルメス・トリスメギストス』と同一と考えられた』
クトゥルー神話世界では、人類に核をもたらしたのはニャルラトテップと言われています。人間に兵器を与えることで、新しい混乱の種を生み出し、より大きな災厄をもたらし、楽しんでいるというわけです。
『刻無・零』では、このニャル様の属性の解釈をさらに発展させ、錬金術すらニャル様の関与があったとほのめかしています。
……上手いです。
既存の解釈をコピペしたように貼り付けるのではなく、オリジナルな解釈をしっかりと混ぜ、しかもクトゥルフ神話好きならニヤリとできるものに仕上げています。
■ 評価
お勧めです。
これだけの低コストでクトゥルー神話伝奇を楽しめるゲームは他にないと思います。
体験版がこちらにありますので、是非プレイしてみてください。(体験版だけでも、クトゥルフ神話用語がでてきます)
ただし『刻無 零』は『刻無』のプロローグ的位置に当たる作品で、シリーズ全体では完結していません。『刻無』本編は2009年度の頒布を目指しているようですよ!
入手手段は限られていますが、あきばお〜こくの 刻無√D〜Root of Dagon +刻無零完全版 が良いと思います。(もちろんプレイは刻無零完全版から!)