クトゥルフ神話とウルトラマンが出会った交差点

 ウルトラマンにおけるクトゥルフ神話



 クトゥルフ神話は日本神話やギリシア神話と同じく、あらゆる媒体で使えるリソースです。誰がどこでどんな形で使ってもかまいません。
 ですが、何を考えたかウルトラマンという媒体でそれをやらかした方がいます。もちろん我らが小中千昭さん。関わった作品にクトゥルー神話ネタをねじ込み続けるシナリオ界のクトゥルー神話伝道師です。
 その結果誕生したのが、ウルトラマンティガ(1996年09月〜1997年08月)のラスボス邪神ガタノゾーアであり、ウルトラマンガイア(1998年09月〜1999年08月)の大海魔ボクラグと根源破滅飛行魚バイアクヘー、ウルトラマンネクサス(2004年10月〜2005年06月)のクトゥーラです。*1 *2



(画像引用はウルトラマンティガHP怪獣wiki特撮大百科事典より)


 クトゥルー神話におけるガタノゾーアは、ムー大陸で暴れた邪神とされ、その姿を一目見たものは脳を残して石化すると言われています。一説にはクトゥルーの息子と言われているほど高位な存在ですから、ウルトラマンティガのラスボスに選ばれたのも納得です。
 事実、ウルトラマンティガを一度は倒し、石像の姿に戻しました。(石化攻撃をしたのではなく、光のエネルギー切れを起こさせた結果、ウルトラマンティガが石像へと戻ってしまった……という感じです)
 歴代の中でも人気が出た怪獣らしく、怪獣萌え化漫画『ウルトラ怪獣擬人化計画 ギャラクシーデイズ』にも登場していますし。
 
 
 バイアクヘーはクトゥルー神話においては小型の種族で正直雑魚。敵というより探索者の乗り物として愛用されています。ボクラグはトカゲっぽいグレートオールドワン。クトゥーラはクトゥルーから名前をとったと思われます。
 
 
 クトゥルフ×ウルトラマンの関係年表
 
 ・1988年 旧版アーカムホラー(ボードゲーム)
 ・1996年 ウルトラマンティガ(特撮)
 ・1998年 ウルトラマンガイア(特撮)
 ・2004年 αΩ(小説)
 ・2004年 ウルトラマンネクサス(特撮)
 ・2007年 クトゥルー神話の謎と真実(解説書)
 ・2009年 這いよれ! ニャル子さん(ラノベ)
 ・2009年 萌え萌えクトゥルー神話事典(解説書)
 ・2010年 伴天連XX(コミック)
 ・2011年 暗黒神話∵△∵ウルトラマン(やる夫)
 
 
 クトゥルフ神話におけるウルトラマン(個別作品紹介)


 本家ウルトラマンがクトゥルフ邪神を登場させたのとは逆に、クトゥルフ作品がウルトラマンをモチーフとして使うケースがあります。


 今は入手が難しい「昔の」アーカムホラーには「光の巨人」「誘拐怪人」という駒があります。シルエットだけですが、ウルトラマンおよびケムール人だとわかるもので、スタッフが遊んでいたことがわかります。クトゥルフとクトゥルフがクロスオーバーした最初の作品で、適当な憶測で申し訳ないのですが、ウルトラマンティガに携わった小中千昭さんも、もしかしたらここからヒントを得たのかも知れません。

 ・光の巨人:〈飛行〉 F-10 SP-20 SAN 0/0 一回だけ仲間にできる
 ・誘拐怪人:● L-9 SP-12 SAN 1/2 倒されたら遊園地へ



(データ&画像提供:赤虫療養所寺田幸弘さま)


 『萌え萌えクトゥルー神話事典』では邪神と戦う旧神に光の戦士を重ね、下の画像のようにデザインしています。しかもスペシウム光線ポーズまでして!



 『伴天連XX』では逆に、邪神ニャルラトテップのモチーフとしてウルトラマンが使われています。特にシルエットの画像。ウルトラマンのオープニングのワンカットを比較してみてください。作者がノリノリで遊んでいることが感じられます。




 他には、小林泰三さんの小説『ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚』がウルトラマンをモチーフにした作品です。厳密なクトゥルー神話作品とは言いがたいのですが、小林泰三作品を読んでいれば微かに解るクトゥルー神話要素が出てきます。


 今度アニメ化される『這いよれ! ニャル子さん』もウルトラマンに影響を受けています。旧神や旧支配者を「星人」と捉え直し、地球で悪を働くものたちに対抗する構図はウルトラセブンそのもの。具体的なネタとしてはシャンタクをカプセル怪獣になぞらえたシーンもありますし、宇宙警備隊本部のある場所が「光の国」だったりします。
 さらにイラストではナイトゴーントがゼットンそっくりにデザインされています。



 食玩のネクロスの要塞には邪神クトゥルフ編があるのですが、そこで登場するゴーントもウルトラマンがモチーフ。……なぜナイトゴーントがウルトラマンという疑問はあるのですがっ。


 クトゥルフ神話の強力な存在(神)にウルトラマンを重ねるだけではなく、あのおどろおどろしい世界観、怪獣や星人といったものとウルトラシリーズの共通点を見出した方もいます。それが東雅夫さん。『クトゥルー神話の謎と真実』において、『ウルトラQ』とクトゥルー神話の接点について述べられています。


 同人におけるクトゥルフ×ウルトラマン



 赤虫療養所寺田幸弘さまから、

 あと同人誌関係で、馬馬鹿鹿研究所というサークルさんが出されている『貴方の
望んだこと』第三集の「胡蝶の翅音」(Deep Voice)所収の妖魔録という記事で


・ガタノゾーア(Gatanothor)、暗黒の支配者
 旧支配者
 小中千昭『深淵を歩くもの』
 小中千昭「ウルトラマンティガ」第51〜52話


・シビトゾイガー(Shibito-Zoiger)、超古代怨霊翼獣
 下級の奉仕種族
 小中千昭『深淵を歩くもの』


がCoCデータ化されておりました。


 という情報を教えて頂きました。ありがとうございます!


 そして、今回改めて紹介したいのが『暗黒神話∵△∵ウルトラマン』。
 ウルトラマンとクトゥルフ、なかでもデルタグリーンをやる夫という形でクロスオーバーさせた作品です。


 暗黒神話∵△∵ウルトラマン


 『暗黒神話∵△∵ウルトラマン』はやる夫作品。2011年01月25日に予告が行われ、2011年02月05日に正式にスタートしました。未完ですが、現在までに10話+αがリリースされています。


 【クトゥルフ】 暗黒神話∵△∵ウルトラマン 【デルタグリーン】


 特筆すべきはシナリオの面白さ。ウルトラマンとクトゥルフ神話から似たシナリオを見つけ、その二つを見事に融合させた上で、わかりやすくしかもかっこ良く仕上げています。この面白さはとりあえずご覧になって頂くしかありません。両方のファンなら大歓喜。片方しか知らなくても、あるいは元ネタを全くしらなくてもその面白さは伝わると思います。*3


 以下、ネタバレになりますので、ウルトラマン側のネタとクトゥルフ側のネタ、および簡易感想を白反転しました。大丈夫な方のみご覧下さい。……と言ってもタイトルを見るだけで、何が使われているかわかるかもしれませんけどね!


  File No.01 来訪者事件第1号
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕ウルトラ作戦第一号(宇宙怪獣ベムラー)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕宇宙からの色
  ・〔簡易感想〕湖に落ちた隕石というオープニングから、ウルトラマン第一話と宇宙からの色をつなげた発想が素晴らしいです。しかも、AAで登場させた怪獣はヘドラ! 宇宙からの色を意識した見事な配役だと思います。なお、途中ある「水銀コバルトカドミウム」なるコメントは『かえせ!太陽を』という動画をお探し下さい。『ゴジラ対ヘドラ』のテーマです。


  File No.02 堕慧児を撃て!!
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕侵略者を撃て(宇宙忍者バルタン星人)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕ダニッチの怪
  ・〔簡易感想〕侵入者ということでウェイトリィ(兄)! しかも配役は異形ネウロ。ちなみに堕慧児とは『SIREN 2』に登場する化物の名前。


  File No.03 デルタグリーン出撃せよ!
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕科特隊出撃せよ(透明怪獣ネロンガ)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕ダニッチの怪
  ・〔簡易感想〕透明つながりでネロンガとウェイトリィ(弟)を重ねたのは素晴らしすぎます。しかも「3話めでマミ」ってますしっ。


  File No.04 過去から来た悪意
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕遊星から来た兄弟(凶悪宇宙人ザラブ星人)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕チャールズ・ウォードの奇怪な事件
  ・〔簡易感想〕このシナリオは特に名作。ザラブ星人は偽ウルトラマンが登場する話なのですが、そこにチャールズ・ウォードの入れ替わりを重ね、さらにニャルラトテップ登場という驚きを加えてきます。


  File No.05 邪神は再び
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕悪魔はふたたび(赤色火焔怪獣バニラ、青色発泡怪獣アボラス)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕潜伏するもの
  ・〔簡易感想〕コナン! しかもベルセルクのガッツ! このオープニングでいきなりしてやられました。


  File No.06 遠い街への銀の鍵
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕遠い街ウクバール(守護獣ルクー)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕ウルタール(の設定)
  ・〔簡易感想〕この話はウルトラマンガイアにある『遠い街ウクバール』が元ネタなようです。管理人、該当作を見ておらず、申し訳ないのですが分析が不可能……がくり。


  File No.07 大発狂五分前
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕大爆発五秒前(海底原人ラゴン)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕ダゴン
  ・〔簡易感想〕海底原人ラゴンの元ネタは映画「The Creature from the Black Lagoon(大アマゾンの半魚人)」のラグーンからと言う説があるのですが、その『大アマゾンの半魚人』の元ネタが『インスマスを覆う影』だと言われています。そしてその二つがこの『大発狂後秒前』で再集結!


  File No.08 ミロガンダの恐怖
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕ミロガンダの秘密(怪奇植物グリーンモンス)+甘い蜜の恐怖
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕恐怖の山
  ・〔簡易感想〕植物つながりでウルトラシリーズの植物話をつなげた作品。もしかしたら上に挙げた2作以外にも元ネタがあるのかもしれないけれど、不勉強な管理人には解らず。追加。チャウグナー・フォーンの落とし子が植物なのは『ひでぼんの書』からのようです。


  File No.09 脳髄標本35号
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕人間標本5・6(三面怪人ダダ)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕闇に囁くもの
  ・〔簡易感想〕この作品もシビれる重ね方! 誘拐→標本のコンボでダダとミゴをつなげたのは見事としか言いようがありません。不気味キャラに長門を持ってきたのも意外な使い方でスパイスが効いてました。


  File No.10 故郷は地球 A-Part
  ・〔ウルトラマン側の元ネタ〕故郷は地球(棲星怪獣ジャミラ)
  ・〔クトゥルフ神話側の元ネタ〕狂気山脈
  ・〔簡易感想〕未完なのでなんとも言えないのですが名作な予感! というか例のあの言葉で二つをつなげるなんて卑怯にも程がありますっ!


 クトゥルフ神話を、そしてウルトラマンをご覧になっていたなら、元ネタにニヤニヤし、そのアレンジの見事さに感心されることでしょう。すぐさまページをお気に入りに放り込み、続編がアップされるのを心待ちにしようではありませんか!


 ※なお、第五話の元ネタ、最初わからなかったのですが、作者さまのコメントでわかりました。ありがとうございます! 残りのシナリオもがんばってくださいませ。ていうかクトゥルフ神話界のすごい人達が書き込んでるスレですね……。このあたりのやり取りとか。「抗神組織」の辺りとかすごくワクワクします。


 おまけ:仮面ライダーとクトゥルフ神話



 では、仮面ライダーではどうでしょうか?
 実は『這いよれ! ニャル子さん』が仮面ライダーネタを多用しています。作中のネタ(特にニャル子さん変身後の姿がライダーっぽい)だけではなく、ライダーの変身ポーズが表紙デザインに取り入れられるほど!
 
 
 さらにもう一つおまけ:海外版ウルトラマンDVD



 なお日本でもウルトラマンの海外の正式なコンプリートDVDが激安で買えます。私が今回調査のために購入したのもこれ。というのも『暗黒神話ウルトラマン』の製作者のコメントで、この海外版ウルトラマンDVDが紹介されているのです。39話すべて入って1982円(2012年01月現在)は安すぎ……!(直接アメリカアマゾンから買うならもっと安いですがっ)


 amazon.co.jp : Ultraman: Complete Series


 ただし、1つだけ注意しなければなりません。それがリージョンコード。別にめんどくさいものではなく、知ればそれで終わりなのですが、詳しくはwiki(リージョンコード)をお読みください。ちなみに私はサブPCを海外DVD専用再生機にしています。
 
 

 クトゥルフ神話好きに見て欲しいウルトラセブンの「ノンマルトの使者」
 
 クトゥルフ神話要素があるわけではないのですが、クトゥルフ神話好きには見てほしいのがウルトラマンセブン第42話の「ノンマルトの使者」です。
 
 深海には人類よりも早く地球に住んでいた「ノンマルト」なる存在がいる……というお話で、半魚人っぽいデザインや、七本足のタコヒトデ怪獣が出てきます。
 色々と考えさせられる作品です。
 
 
 アマゾンプライム会員なら無料で見れますので是非。
 
 

ノンマルトの使者

ノンマルトの使者

 
 

*1:他にも、キリエル人が「イスの偉大なる種族」と似ているという指摘があったり、ウルトラマンティガでルルイエ、ウルトラマンガイアにセレファイスという地名が登場したりします。あとティガにおけるゾイガーがロイガーのもじりという指摘や、ウルトラマンダイナのバオーンがツァトゥグァそっくりという指摘も。

*2:改めて考えると、太古から地球に眠り続けている怪獣とかつて地球を支配していた邪神を重ねるのは自然です。また、宇宙から地球を侵略しに来る星人と宇宙の外から来るクトゥルー神話の神々を重ねるのも自然です。ですがキチンとそこに目をつけた上で、本当にやってしまうとは! ……と書いてましたが、年表をまとめるとアーカムホラーの方が先ですね。ここからインスパイアを受けた可能性もでてきました。

*3:作品の冒頭で引用されている「名誉ある、されど栄光なき戦い」は、クトゥルー神話研究家竹岡啓さんによると「デルタグリーンのソースブックの裏表紙に書いてある文章が元々の出典」とのこと。なお、「デルタグリーン」とは「旧支配者の脅威から人類を防衛することを目的とする抗神組織」です。詳しくはこちらを御覧ください。竹岡啓さんによる解説があります。なおこの解説、『暗黒神話∵△∵ウルトラマン』の作者も参考にされたとのこと。