クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X
■ 収録作
2012年08月01日に発売された『クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X』の収録作は以下の通り。
『遊星からの物体X』(J・Wキャンベル)
『ヴェールを破るもの』(ラムジー・キャンベル)
『魔女の帰還』(ラムジー・キャンベル)
『呪われた石碑』(ラムジー・キャンベル)
『スタンリー・ブルックの遺志』(ラムジー・キャンベル)
『恐怖の橋』(ラムジー・キャンベル)
『クトゥルフの呼び声』(H・P・ラヴクラフト)
何と言っても目玉は日本でほとんど紹介されなかったラムジー・キャンベルの初期短篇集五作! その中には、狂気山脈に影響されて書いたと言われる『遊星からの物体X(影が行く)』や、一部熱狂的な崇拝者がいる「ダオロス」の初出である『ヴェールを破るもの』、丁寧なラヴクラフト風恐怖短編『恐怖の橋』が収録され、ホラー小説愛好家、クトゥルー神話愛好家に是非手にとって欲しい短篇集になっています。
というわけで、以下一部作品の簡単な紹介を。
■ 『遊星からの物体X』
キャンベルはキャンベルでも、ラムジー・キャンベルではなく、J・W・キャンベルJrが書いた短編作品。
原題『Who Goes There?』が『遊星からの物体X(The Thing)』として映画化され、大ヒット。
その原作小説なんだけれど、『影が行く―ホラーSF傑作選』に『影が行く』というタイトルで収録されているので、そちらで呼んだことがあるかも知れない。
クトゥルフ神話の研究者ロバート・M・プライスによると、「明確な主題をラヴクラフトの『狂気の山脈にて』を共有しており、これに触発されたという事は十分あり得ることだ」とこと。モチーフがいかにもクトゥルーっぽいため、邪神やクリーチャーに絞ったクトゥルフ神話TRPGの資料集『マレウス・モンストロルム』にも、遊べるよう物体Xとしてデータが収録されている。
そういや、ニャル子さんでも、ネタとして使われたねぇ。
■ 『ヴェールを破るもの』
ダオロス! ダオロス!
凄く人気がありながら、原作短編が翻訳されて来なかったダオロスの初出短編がようやく翻訳されました。
小説での表現や説明はこんな感じ。
それははっきりとした形があるもののとても複雑な構造をしていたので、どんなふうに見えるのかを説明するのは難しい。二つの半球体と、きらめく金属が、いくつもの長いプラスチックの棒で接合されている。棒は灰色の平べったいもので、どこがどうなっているのか顔を近づけてもよくわからない。
(中略)
見ていると、某の間にいくつもの目玉がかすかに輝いているように感じられ、気持ちが悪くなった。だが、その複雑な構造体の隙間を改めて見なおしても、何もない。いちばん妙なのは、目にしたように感じた何かが生きているように感じられたことだ──人間の世界とは相いれない異様な幾何学に支配された世界の一端を垣間見たような気がした。
ダオロスとは神の一種──異星の神だ。アトランティスでも崇拝されていた存在で、あの世界では占星術を支配する神として崇められていた。(中略)人間に姿を見せてはならない存在で、渦巻きの中に潜むそれを無理に見ようとしたものは破滅を招く。だから、かれを呼び出すときは明かりをつけてはならない──夜中に召喚する時、すべての電灯のスイッチを切っておかなければならないのだ。
クトゥルフ神話存在の中でも、圧倒的な異次元存在!
『マレウス・モンストロルム』での特殊能力もえげつなく、「ダオロスの体にあたったり、ダオロスの体の中にめり込んだものは、すべて異次元に送られてしまう」と書いてある。
……どうやって勝つのさ。
いや、基本的にクトゥルー神話の神々には勝てないものなんだけどさ。
■ ……と、まあ
調子に乗って書きだしたものの、怪奇・ホラー短篇集なのに粗筋その他を書きまくる愚を感じたので、以上の二つだけで打ち止めに。
ともあれ、クトゥルー神話を追いかけている人なら買って損はない短篇集だと思う。
amazon.co.jp:『クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X』
出版社さんに対して言いたいことはひとつ!
ラムジー・キャンベルの初期短篇集、こんなに沢山翻訳してくれてありがとうございます!
あとは、ウニウニトゲトゲナメクジのアンデット製造神グラーキが登場する『湖の住人』(ラムジー・キャンベル)の翻訳を何卒よろしくお願いします!