『羊飼いのハイータ』に登場するハスター
ハスターという言葉が登場したのは、ラヴクラフトよりも前の作家、アンブローズ・ビアスによる『羊飼いのハイータ』という短編です。(クトゥルフよりも、ハスターの方が単語としては早いのです!)
ハスターが登場する箇所を、若干の解説とともに抜き出してみます。
■ 『羊飼いのハイータ』からの引用
彼は朝日と共に起きると、羊飼いたちの神ハスターの祭壇へいって祈りを捧げた。
→ 『羊飼いのハイータ』において、ハスターは羊飼いの神です。
というのも、決して姿を現さぬハスターの恩恵に次いで、ハイータは自分の隣人である、森や小川に住む恥ずかしがりやの神々の親しみにあふれた関心を大いにありがたいと思っていたからだ。
→ ハスターは姿を現さないようです。
「おお、ハスターさま、あなたのやさしいお情けで」と、彼は祈った。「わたしの住み家と囲いのすぐ近くに山を与えてくださいましたおかげで、わたしも羊たちも、怒り狂う流れからのがれることができます。でも、この世の他の人たちも、わたしには思いつきませんが何とかして、お救いくださらなければいけません。でなければ、わたしはもうあたなを拝みません」
すると、このハイータが自分の口にした言葉通りに約束を守る若者だと知っているハスターは、都会の人々を救い、大水を海へ注いでやった。
→ 信仰心が厚いものが祈りを捧げれば、ハスターはその願いを叶えるようです。
時間にせかれて、彼は失望も忘れ、羊の群れを囲いの中に追い込むと、礼拝の場所へおもむき、羊たちをすくってやることができたのをハスターに心から感謝をささげ、それから洞窟に戻って寝た。
→ 礼拝の場所があるようです。
「あなたはちゃんと羊たちへの勤めを果たしましたね。そして、夜のおおかみが近づけなかったので、ハスターに感謝するのを忘れませんでしたね。それで、あたしはまたここにきて上げたのですよ。あたしを仲間に入れてくれますね」と彼女は言った。
→ 信心深いハイータのところにものすごい美少女(正体は『幸運』の擬人化)がやってくるのですが……。これがハスターの使いなのか、ハスターに祈るハイータを見かけた少女(幸運)が自分の意志でやってきたのかはわかりません。
「かわいそうなおじいさんだ!」と、ハイータは家路をさして、とぼとぼ歩きながら声に出してつぶやいた。「あしたまたいって、背中におぶって、おれの家につれてきて上げよう。家でなら面倒をみてあげられるから。ハスターが今まで何年も育てて下さり、おれに健康と力を与えて下さったのも、きっとそのためなのだろう」
→ ハスターは羊飼いハイータに心から信仰されています。
「美しい方よ」彼は叫ぶように言った。「わたしの全身全霊をこめた献身をお受け取り下さりさえすれば──ハスターを礼拝したあとで──それは永遠にあなたのものでございます(後略)」
以上の箇所にハスターという言葉が登場します。
■ まとめ
『羊飼いのハイータ』に登場するハスターは、どちらかといえば、温厚で、普通に信仰される神さまだったようです。
ただし、詳しいことはわかっていません。
ハスターという言葉は、後にロバート・E・チェンバースが『黃衣の王』で使い、ラヴクラフトが『闇に囁くもの』で言及しました。
ですが、ラヴクラフトが使った段階では、まだよくわからない正体不明の存在でした。
今、私達が思い描く「ハスター」という神は、オーガスト・ダーレスとマーク=スコラーの『潜伏するもの』以降の描写です。いえ……まあ、そちらでも、「名状しがたきもの」という風に、「よくわからない」存在なのですが。
ここまでに書いてきた変遷は、竹岡啓さんの「ハスター神話」に関する覚書に詳しいです。
そう考えると、「キーワードを共有する神話」という意味では、ビアース、チェンバース、ラヴクラフト、ダーレス、スコラーという流れを重視して、「ハスター神話」とした方が良いようにも思えてきます。実際、ダーレスが「神話創作群」の名前候補として最初にあげたのは「ハスター神話」だったのですから。(その辺りについても、竹岡啓さんの「ハスター神話」に関する覚書をご覧ください)
■ pixivで読める『羊飼いのハイータ』
『羊飼いのハイータ』の大筋を漫画化されている方がいます。
pixivで読むことができます。
・羊飼いハイタ
■ 青空文庫に『羊飼いハイタ』が!
追記です。
2015年11月22日、青空文庫に『羊飼いハイタ』が登録されました。
青空文庫:羊飼いハイタ
これでどなたでも全文が!