クトゥルフという呼び方が広まったのはいつなのか? どうしてなのか?
現在、Cthulhuは、クトゥルフと呼ぶのが一般的です。
いろいろなところで言われている通り、これはニコニコ動画のクトゥルフ神話TRPGの流行が影響しています。
1.『アイドルたちとクトゥルフ神話世界を!』シリーズの登場。以降登場したアイマス×クトゥルフ神話TRPG動画。
2.ミクトゥルフ、クトゥルフソングの流行。ルカ登場により、たこルカの誕生。クトゥルカの派生。SAN値直葬タグの誕生。
3.東方×クトゥルフ神話TRPG動画の流行。
4.『ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG』を嚆矢とする、ゆっくり×クトゥルフ神話TRPGの大流行。
この4ジャンルの影響はとても大きく、ニコニコ動画から入ってきた方々の呼び方は自然に「クトゥルフ」となるようです。
ですが、Cthulhuは少し前まで、クトゥルーおよびクトゥルフという二つの代表的な呼び方がされ、どちらが優勢というわけではありませんでした。
その勢力図が変わって、「クトゥルフ」に傾いたのは具体的にいつのことなのか。そして、それはどうしてなのか。それらをこの記事で分析できればと思っています。
そして、すみません。
これ、もしかしたら、私がやらかしたことの懺悔になります。
■ グーグルトレンドからわかる分析
さて。
グーグルさんが公開しているデータの中に、グーグルトレンドというものがあります。
過去、その単語がどれくらい検索されたかをグラフで表示してくれるもので、その単語がその月にどれくらい人気だったのか、だいたいながらわかります。
サイト:googleトレンド
このグーグルトレンドを使って、「クトゥルー」および「クトゥルフ」で検索してみました。
その結果がこちら。(一度はリンク先を実際に御覧ください)
なんだかクトゥルフのほうがダントツで伸びてますね!
最初の方は似たような検索数だったクトゥルーとクトゥルフですが、2008年9月以降、クトゥルフが優勢になり、クトゥルーがガクンと減り、以降その差は広がる一方です。
※すみません。重要な追記です。グーグルトレンド、日によっては上記スクリーンショットと微妙に違うデータが出ます。差が開き始めたのは2008年7月からだったりと、記事とは微妙に異なるデータが出る場合があります。ですが、概ね「2008年の夏から秋にかけて、差の開きが閉じなくなった」という記事の論旨には変わりありません。気にせず記事を御覧ください。
では、2008年の夏に何があったのか?
以下、告白を兼ねたものを……。
■ ニコニコ動画のクトゥルフタグの影響について(2008年に何をしたのか?)
昔、ここの管理人はニコニコ動画にはまってました。
クトゥルー神話関連の動画を探し、暇さえあれば見ていた記憶があります。
ですが、クトゥルー神話関連動画のタグについて、モヤモヤしていたことがありました。
タグは当時10個登録できたのですが、クトゥルーとクトゥルフの用語が五分五分の勢いだったため、「クトゥルフ」「クトゥルー」というタグが並ぶのは当たり前。ひどい時には「クトゥルー」「クトゥルフ」「クトゥルフ神話TRPG」「Cthulhu」「ク・リトル・リトル」という風に、ほとんどがクトゥルフ関連タグで埋め尽くされていたことすらありました。
おそらくは親切な方の好意によってなのでしょうが、動画を見に来ている一般の人たちにとっては単なるタグ荒らしです。
そこで、ここの管理人は考えました。
もっとすっきりできないだろうか……と。
「クトゥルー/クトゥルフ/Cthulhu」という名前で統一することも考えましたが……流行らないと考え、当時のニコニコ動画で若干優勢だった「クトゥルフ」の方に統一することにしました。(母数は忘れましたが、30か50くらいの差でクトゥルフが一番だったのを覚えています)
クトゥルフ神話動画をあさって、「クトゥルフ」タグを登録し、「クトゥルー」や「ク・リトル・リトル」、「Cthulhu」といったタグを削除しまくったのです。
タグをスッキリとすれば、タグ職人が活躍するスペースが生まれますし、私のように情報を知りたい人にとっては「クトゥルフ」タグ一つですべてのクトゥルフ関連動画を調べられる──、と考えたのです。ニコニコ動画内での好意のつもりでした。
じつは、それが、2008年の夏でした。
(6月か7月か8月か9月かは不明ですが、暑い中、タグを登録していた記憶があります)
■ タグの編集について
この辺りのことは過去(2010年頃)にツイッターでつぶやいてました。
(当時、グーグルトレンドのことは知らなかったので、まさかクトゥルフとクトゥルーの呼び方がこんなことになっているとは思いもよらず……無邪気なものでした)
ちなみに、こっそり裏話をさせていただくと、ニコ動で「クトゥルフ」タグが一般的になったのは、私が暗躍してしまったからです……。確か、私がニコ動を知ったころ、神話動画には大抵は「クトゥルフ」「クトゥルー」と一つの動画に2つのタグがつけられていました。
— 旅雨 (@DHKNS) 2010, 6月 8
本当に知りたい人がタグで動画を探した場合、「クトゥルフ」タグにあって「クトゥルー」タグにない動画とか、「クトゥルー」タグにあって「クトゥルフ」タグにない動画とかを見つけられない可能性がたかい、と思いました。(他、「クトゥルフ神話」「ク・リトル・リトル」などその他沢山)
— 旅雨 (@DHKNS) 2010, 6月 8
そこで、暇を持て余した時に、10:8くらいで多かった「クトゥルフ」タグを優先。ごめんなさいとあやまりながら、「クトゥルー」タグを消去しまくりました。(他、「クトゥルフ神話」や「ク・リトル・リトル」タグも) とは言え、タグ保護にしていたいくつかは消せなかったっすけどね。
— 旅雨 (@DHKNS) 2010, 6月 8
以降、グーグルトレンドのデータをご覧のとおり、それまで凄く似た数字だったクトゥルーとクトゥルフの数が、2008年の夏以降、見事にパカっと開いています。
ニコニコ動画のタグ統一がそこまでの影響力を持つものか……ということになるのですが、正直私も半信半疑です。
ですが、2008年の夏、検索数に影響し、それ以降ずっと差を開かせるような著名なクトゥルフ神話作品やイベントがありません。
クトゥルーとクトゥルフの検索数に明確な差を、「一過性ではなく継続的に生み続ける何か」、しかもと「それに合わせたタイミングでクトゥルーの検索数が低空飛行を始めた」という現象に合うのは、このタグ編集以外に思い至らないのです。(影響力ある作品はグラフにひとつの山を作るだけですが、タグはずっと影響し続けますし……)
そこで、逆に考えるようになりました。「ニコニコ動画はグーグル検索数に影響を与えるほどものすごく魅力的なコンテンツであり、たくさんの人の知識欲を刺激するほど強い影響力を持っていた」のだと。
■ ニコニコ動画は本当にグーグル検索データに影響を与えうるのか?
当時はミクがものすごい人気でしたし、私と同じようにニコニコ動画に入り浸っていた人も多いことでしょう。そこでクトゥルフ神話に初めて出会う人もたくさんいたことでしょう。その時ニコニコ大百科はまだ生まれていなかったので、グーグルさんに「クトゥルフ」と入力して調べる方も多かったことでしょう。なので……もしかしたら……。
重ねて言います。この「タグ編集」が本当に検索結果に影響を与えたのかは不明です。
ですが、後世のクトゥルー神話研究家はこのデータを見て頭を悩ますことでしょう。どうして2008年の夏以降差が開いているのだ、どうして「クトゥルー」の検索数が低空飛行を始めたのだ、そこに何があったんだ、と。
なので、あくまで「もしかしたら」なのですが、私がニコニコ動画のタグ統一をやらかし、それが影響してしまったかもしれないことを白状しておきます。当事者本人が口をつぐめば、真相だったかもしれないことが闇に埋もれることになりますし。
これが私の懺悔です。
……なのですが。
その後、大きな波がやってきます。
これらのやらかしを飲み込むような、ものすごく大きな波が。
それが2011年から現在にかけての流れ。
『ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG』が投稿され、「ゆっくり×クトゥルフ」の大流行が起きるのです。
■ 2011年と2012年における「ゆっくり×クトゥルフ」の大ブーム
『ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG』は2011年3月に投稿されました。
TRPGの魅力をノリの良い会話で表現した素敵な動画でした。
プレイに使われたのは、『クトゥルフ神話TRPG』と、2010年に発売されたサプリメント『クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2010』です。このサプリメントはクトゥルフを現代でプレイするのを簡単にしました。そのことが、「ゆっくり×クトゥルフ」動画をたくさん生み出すきっかけになったのですから、クトゥルフ神話にまつわる流れを一気に変える金字塔的なサプリメントと言っても過言ではないかもしれません。
現代クトゥルフおよびリプレイ動画の魅力に気づいた方々が、「ならば私も!」とそれぞれの切り口から「ゆっくり×クトゥルフ神話TRPG」動画を投稿し始めます。2011年の末ごろから2012年の初頭にかけて、クトゥルフ神話TRPG動画が爆発的に増えはじめたのです。そのブームおよび影響は、2015年現在でも続いています。クトゥルフ神話TRPGタグがついた動画は一万を超えました。現在、毎日10から20もの新作が投稿されています。
それらの影響ははっきり検索数に出ています。2012年4月の検索数は、ニャル子さんのアニメ化放送があったにもかかわらず、ニャル子さんが使っていた「クトゥルー」よりも、「クトゥルフ」の方が多いのです。
ニャル子さんの影響でニコニコ動画のクトゥルフ神話TRPG動画が注目されたんだよ、と語る方もいますが、それは違うと思っています。
それもデータにも現れています。ニャル子さんのアニメ放送が始まる前、2012年の1月2月3月のクトゥルフの検索が急勾配になっているのです。つまり、2012年の4月の凄く大きな「データのとんがり」は、クトゥルフ神話TRPGブームとニャル子さんの放送が偶然重なって、すさまじい相乗効果をあげた結果でした。日本のクトゥルフ神話がたくさんの人に認知されることになった、本当に奇跡の一ヶ月だったと思っています。
ニャル子さんの放送が終わって以降、「クトゥルー」の検索数は減少しています。
ですが、「クトゥルフ」の検索数は伸び続けています。
これはニャル子さんとクトゥルフ神話TRPG動画のブームが基本的には別な流れだという証明なのと同時に、動画を制作している皆様が魅力的なコンテンツを送り届けている証拠だと思います。
そして、今クトゥルフ神話に入ってくる人のほとんどが、ニコニコ動画およびクトゥルフ神話TRPGを経由していることをも示しているのだと思います。
■ まとめ
2000年台前半までは五分五分だった「クトゥルー」と「クトゥルフ」の呼び方が、現在「クトゥルフ」に傾いているのは、ニコニコ動画に投稿された「クトゥルフ神話TRPG動画」の影響だと考えられます。
その最も大きなターニングポイントは、2011年3月に投稿された『ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG』であり、現在進行形でどんどん増え続けているたくさんのゆっくり×クトゥルフの動画だと考えています。
なお、クトゥルフ表記そのものの由来については、クトゥルー神話研究科の森瀬繚さん墨東ブログの永井豪とクトゥルー神話(後篇)の記事にまとめられています。
■ ちょこっとおまけ
検索が増えているというのは、新人さんが入ってきている証拠です。
グーグルトレンドと言う名前がつけられているように、googleが提供しているこの検索データ出力サービスは、「トレンド」の傾向をある程度つかむためのものですし。
そうです! 今、「クトゥルフ」はものすごい伸びを見せているのです!
出版やエンターテイメントに携わる皆さん、今がチャンスですよ!
次の商品に、クトゥルフ神話!
クトゥルフ神話を絡めたコンテンツはいかがっすかね!